本記事は2026年6月時点の公開情報をもとに、Ethereum系トークン規格の基礎を整理する一般的な解説です。投資助言、税務助言、法律助言、特定トークンの推奨ではありません。ERC-20やERC-721という言葉は「共通の呼び出し方」を示す技術規格であり、発行体の健全性、価格の上昇、流動性、スマートコントラクトの安全性を保証するものではありません。
暗号資産やNFTを扱うときは、規格名だけで判断せず、コントラクトの実装、管理者権限、発行量、アップグレード可能性、監査、取引所やマーケットプレイスでの流動性、税務上の扱いを必ず分けて確認してください。
・ERC-20は、同じ単位を交換できる「代替可能トークン」の共通規格です。残高、送付、承認、イベントが共通化されるため、ウォレットや取引所が扱いやすくなります。
・ERC-721は、トークンIDごとに別々の所有者を持つ「非代替トークン」の規格です。NFT、会員証、証明書、ゲーム内アイテムなど、一つひとつを識別したい用途に向きます。
・規格は「交通ルール」のような共通語です。価値や安全性は、規格ではなく、実装、権限設計、発行ルール、利用先、流動性で評価します。
トークン規格を理解すると、ブロックチェーン上の資産がなぜウォレットに表示され、DEXで交換でき、マーケットプレイスで売買でき、別のアプリでも認識されるのかが見えてきます。トークンは単なる「コイン画像」や「NFT画像」ではありません。スマートコントラクトが持つ残高表、所有者情報、送付処理、承認処理、イベント通知を、外部のソフトウェアが決まった方法で読めるようにしたものです。この共通化の中心にあるのが、ERC-20、ERC-721、ERC-1155などのトークン規格です。スマートコントラクトそのものの基礎はスマートコントラクト入門で整理しています。本記事では、その上に乗る「トークン規格」を、初心者がつまずきやすい順番で解説します。
トークン規格とは何か — 共通語があるから連携できる
トークン規格とは、スマートコントラクトが外部に見せる関数、イベント、振る舞いをそろえるための約束です。たとえば、あるウォレットがトークン残高を表示したい場合、コントラクトごとに別々の読み方を覚えなければならないなら、対応は現実的ではありません。そこで「残高はこの関数で読む」「送付はこの関数を呼ぶ」「送付が起きたらこのイベントを出す」と決めておけば、ウォレット、取引所、会計ツール、ブロックエクスプローラー、DeFiアプリは共通の処理で多くのトークンを扱えます。
この考え方は、WebでいうHTMLタグやUSB端子に近いものです。端子の規格があるから機器がつながるように、トークン規格があるから、別々の開発者が作ったコントラクトでも同じアプリから操作できます。ただし、規格は「接続の形」を決めるだけです。ケーブルの規格が合っても機器が高品質とは限らないのと同じで、ERC規格に沿っているから安全、価値がある、運営が信頼できる、とはいえません。
規格がない世界では、アプリはトークンごとに独自仕様を学習しなければなりません。規格がある世界では、同じ関数名、同じイベント、同じ権限付与の流れを前提にできます。これにより、ウォレット表示、DEX取引、ブロックエクスプローラーの履歴表示、ポートフォリオ管理、会計エクスポートがスケールします。
ERC-20 — 同じ単位として交換できるトークン
ERC-20は、代替可能トークンの代表的な規格です。代替可能とは、同じ種類なら一単位ずつの個性を区別しないという意味です。たとえば、同じ発行体のステーブルコイン、ガバナンストークン、ポイント型トークンでは、あなたが持つ一単位と他の人が持つ一単位は基本的に同じ価値単位として扱われます。ERC-20はこの性質を前提に、残高確認、送付、第三者への送付許可、許可額の確認、総供給量、送付イベント、承認イベントなどを共通化します。
この「承認」の仕組みはDeFiで特に重要です。DEXやレンディングプロトコルがあなたのウォレット内トークンを勝手に動かせるわけではありません。多くの場合、まず利用者がコントラクトに一定額までの操作権限を与え、その後にスワップや預け入れ処理が実行されます。便利な一方で、悪意あるサイトに大きな承認を与えると、資産が引き出されるリスクがあります。エアドロップや偽サイトの注意点はエアドロップ安全ガイドでも扱っています。
ERC-20を読むときの落とし穴は、「トークン規格」と「トークンの経済設計」を混同することです。ERC-20であることは、送付や承認のインターフェースが一定の形を持つことを意味します。しかし、発行上限があるか、追加発行できるか、管理者が凍結できるか、手数料付き転送か、ブラックリスト機能があるか、バーンできるか、アップグレードできるかは、実装や周辺コントラクトで変わります。トークンの供給設計はトークノミクスの読み方とセットで確認する必要があります。
ERC-721 — 一つひとつを別物として扱うNFT規格
ERC-721は、非代替トークンの代表的な規格です。ERC-20が「同じ単位を交換できる資産」を扱うのに対し、ERC-721はトークンIDごとに別々の所有者を持つ資産を扱います。NFTアート、ゲームアイテム、会員証、チケット、証明書、ドメイン名のように、一つひとつを識別したい用途では、残高だけでなく「どのIDを誰が持っているか」が重要になります。
ERC-721では、所有者確認、所有権移転、承認、承認済みオペレーター、イベントなどが標準化されます。さらに、メタデータ拡張によって、名前、説明、画像URIなどを外部アプリが参照できる形にできます。マーケットプレイスでNFTの画像や名前が表示されるのは、単に画像がブロックチェーン上にあるからではなく、コントラクトとメタデータの読み方に一定の約束があるからです。ただし、メタデータや画像がどこに保存されるかはプロジェクト次第です。外部サーバー依存、IPFS、オンチェーン保存などで耐久性は変わります。
| 観点 | ERC-20 | ERC-721 | 確認ポイント |
|---|---|---|---|
| 性質 | 代替可能 | 非代替 | 同じ単位として交換するのか、個別IDを識別するのか |
| 主な用途 | 通貨型、ガバナンス、ポイント、ステーブルコイン | NFT、会員証、証明書、ゲームアイテム | 用途と規格が合っているか |
| 重要な情報 | 残高、供給量、承認額 | 所有者、トークンID、メタデータ | 見たい情報が規格から取得できるか |
| リスク | 追加発行、凍結、承認悪用、流動性不足 | メタデータ消失、偽物、著作権誤認、マーケット依存 | 規格外の実装と運営権限を読む |
ERC-721トークンを持っていることは、通常「そのトークンIDの所有者として記録されている」ことを意味します。画像ファイルの著作権、商用利用権、現実世界の物品所有権まで自動的に移るとは限りません。権利の範囲はプロジェクトの利用規約、ライセンス、発行者の説明、対象法域で変わります。
ERC-1155 — 複数種類を一つのコントラクトで扱う設計
ERC-1155は、複数種類のトークンを一つのコントラクトで効率よく扱うための規格です。ERC-20のような代替可能な単位、ERC-721のような一点もの、同じ種類が複数個あるゲームアイテムなどを、より柔軟に管理できます。特にゲーム、コレクション、チケット、デジタルアイテムのように、多数の種類をまとめて発行・移転したい場面で使われます。
ERC-1155の特徴は、バッチ転送や複数IDの管理にあります。たくさんのアイテムを一つずつ別コントラクトで扱うより、まとまった設計にしやすい一方、初心者にとっては「これは通貨型なのか、NFT型なのか」が見えにくくなることがあります。規格名だけでなく、各IDの供給量、メタデータ、転送制限、マーケット対応状況を確認しましょう。
ERC-721やERC-1155の周辺では、コントラクトがどのインターフェースに対応しているかを外部から確認する仕組みも重要です。ERC-165は、コントラクトが特定のインターフェースをサポートしているかを問い合わせる標準です。ウォレットやマーケットプレイスは、こうした検出方法を使って「このコントラクトをどう扱えばよいか」を判断しやすくなります。
ウォレット、DEX、マーケットプレイスは何を見ているのか
利用者から見ると、トークンはウォレット画面に並んでいるだけに見えます。しかし裏側では、ウォレットはトークンコントラクトの残高や所有者情報を読み、イベント履歴を追い、表示用メタデータを解釈しています。DEXは承認額や残高を確認し、流動性プールやルーターを通して取引を組み立てます。NFTマーケットプレイスは所有者、承認、メタデータ、ロイヤリティ設定、コレクション情報を組み合わせて表示します。
ここで大切なのは、規格があるからといって、すべてのアプリが自動的に完全対応するわけではない点です。チェーン、規格、拡張仕様、インデックス処理、メタデータの保存先、マーケット側のポリシーによって、表示されたりされなかったりします。特にLayer 2や複数チェーンを使う場合は、ネットワークの違いも理解する必要があります。階層構造はレイヤー1・レイヤー2解説を参照してください。
規格名だけでは見えないリスク
トークン規格を学ぶ目的は、規格名を暗記することではありません。むしろ、規格で分かることと、規格では分からないことを切り分けることが重要です。ERC-20なら残高や送付の基本インターフェースは想定できますが、管理者が追加発行できるか、特定アドレスを凍結できるか、手数料付き転送か、ブラックリストがあるか、プロキシで実装を差し替えられるかは、別の確認が必要です。ERC-721でも、メタデータが消えないか、真正なコレクションか、権利関係はどうか、二次流通が維持されるかは規格だけでは判断できません。
また、同じ規格でも実装品質は大きく変わります。広く使われているライブラリを使っているか、独自実装か、監査済みか、監査後に変更が入っていないか、オーナー権限が残っているか、マルチシグで管理されているか、タイムロックがあるか。こうした点を見ないまま、規格名だけで「安全そう」と判断するのは危険です。スマートコントラクトの限界は、規格の上に残り続けます。
- コントラクトアドレスが公式サイトや公式SNSと一致しているか
- ERC-20、ERC-721、ERC-1155のどれに該当し、用途と合っているか
- 追加発行、凍結、停止、ブラックリスト、アップグレード権限があるか
- 承認額が過大になっていないか、不要なApproveを取り消せるか
- メタデータや画像の保存先が外部サーバー依存ではないか
- 流動性、マーケット対応、税務記録の取りやすさを確認したか
よくある質問
Q. ERC-20とERC-721の一番大きな違いは何ですか?
ERC-20は、同じ種類なら一単位ずつを区別しない代替可能トークンの規格です。残高として何単位持っているかが中心になります。ERC-721は、トークンIDごとに別々の所有者を持つ非代替トークンの規格です。誰が何番のIDを持っているか、各IDのメタデータが何かが重要になります。
Q. ERC規格なら安全なトークンと考えてよいですか?
いいえ。ERC規格は共通インターフェースであり、品質保証ではありません。規格に沿っていても、悪意ある実装、過大な管理者権限、脆弱なコード、流動性不足、偽コレクション、誤解を招く権利表示はあり得ます。規格名は入口であり、最終判断は実装と運営を確認してから行います。
Q. ERC-1155はERC-20やERC-721の上位互換ですか?
単純な上位互換ではありません。ERC-1155は複数種類のトークンを一つのコントラクトで扱いやすい規格ですが、すべての用途で最適とは限りません。通貨型トークンではERC-20、単一のNFTコレクションではERC-721のほうが、周辺ツールや利用者理解の面で扱いやすい場面があります。
トークン規格は、投資テーマとしてよりも「相互運用性の基礎」として読むほうが理解しやすいです。暗号資産の世界では、銘柄名、チェーン名、プロジェクト名が先に目に入りますが、実際の利用体験を支えているのは、標準化されたインターフェースです。規格を理解すると、ウォレット表示、DEX取引、NFT売買、ブリッジ、税務履歴、承認管理の意味がつながります。一方で、規格名に安心しすぎると、実装や権限設計のリスクを見落とします。初心者ほど、まず「何の規格か」を見て、その後に「この実装は何を許しているか」を読む順番を持つと、表面的な話題に流されにくくなります。
Next Steps — 今日からできること
出典・参考資料
- Ethereum Improvement Proposals: ERC-20 Token Standard
- Ethereum Improvement Proposals: ERC-721 Non-Fungible Token Standard
- Ethereum Improvement Proposals: ERC-1155 Multi Token Standard
- Ethereum Improvement Proposals: ERC-165 Standard Interface Detection
- ethereum.org: Token standards
- OpenZeppelin Contracts: Tokens
- OpenZeppelin Contracts API: ERC20
- OpenZeppelin Contracts API: ERC721
Q. ERC規格について、最も正確な説明はどれですか?
解説: ERC規格はウォレットやアプリが扱いやすくする共通語です。安全性、価値、流動性、権利関係、税務上の扱いは規格だけでは判断できません。
- 2026-12-08 初版公開